中国が尖閣上空に「防空識別圏」ってどういう事?「領空」との違いは?

 中国が東シナ海に「防空識別圏(ADIZ)」を設定したことにより、日本、米国と同国の間で緊張が高まっています。
空域の管轄だけでなく、尖閣諸島の領有も絡んだ複雑な問題です。
防空識別圏の設定にはどのような意味があり、それはどの程度危険なことなのでしょうか?

 中国政府は11月23日、尖閣諸島上空を含む空域に、防空識別圏を設定したと発表しました。
日本政府は24日、中国の識別圏設定にはまったく効力がないとの立場を示し、外務省も「東シナ海の現状を一方的に変更しようというものであり
不測の事態を招きかねない非常に危険なものだ」と中国を厳しく批判しました。
また米国政府も中国政府に対して外交ルートを通じて懸念を表明しています。

領空の周囲に設定する防空識別圏

 防空識別圏は、国際法上の領空と混同されがちですが、両者は異なるものです。
防空識別圏は、各国が一方的に設定するため実際には法的根拠がなく、近隣諸国との交渉にも基づいていません。
非友好的な航空機の接近を阻止するための早期警戒が目的とされ、戦闘機が緊急発進(スクランブル)する際の判断基準となる空域のことを指します。

 領空は領海と異なり、無害通航権(敵対的でなければ自由に通航してもよいという権利)が認められていません。
このため領空を航空機が勝手に侵犯すれば、場合によっては問答無用で撃ち落とされる可能性があります。

 そこで各国政府は、領空の周囲に防空識別圏というエリアを設定し、この範囲に外国の航空機が勝手に進入した場合には、戦闘機がスクランブルを
かけるようになっています。
この空域に航空機を進入させても、国際法上の領空侵犯にはなりませんが、敵対的行為であるとみなされても仕方ないわけです。

 中国はこの空域を単に通過する航空機と、中国領空に入ろうとする航空機を区別しないと言っています。
一方、米国の防空識別圏の解釈は中国と異なります。米国のケリー国務長官は23日、「米国は領空に入る意思のない外国機に防空識別圏の規則を適用しない」と強調し
中国のような立場には同意できないと明言しました。
米国にとって中国の防空識別圏は尖閣諸島を巡る問題にとどまらず、公空の飛行の自由にかかわる問題でもあるのです。

特異さが目立つ中国の防空識別圏

中国の防空識別圏は、日本や韓国、それに台湾の防空識別圏と比較すると、その特異さが目立ちます。
東シナ海の航空管制は、ICAO=国際民間航空機関のルールで、日本、韓国のインチョン、台北、中国の上海の各管制機関が空域を分担して行っています。
日本、韓国、それに台湾の防空識別圏はそれぞれの管制空域に沿う形で設定されています。
ところが中国の防空識別圏は担当エリアを大きくはみ出し、日本、台北、インチョンの管制空域に食い込んでいます。
また、フライトプラン=飛行計画書の扱いも異なります。
日本は通常の管制業務の中で国土交通省がフライトプランを受け付け、防衛省にも提供しています。
ところが中国は担当する上海だけでなく、新たに設定した防空識別圏と重なる日本、台北、インチョンの管制空域のフライトプランも、提出するよう求めています。
このほか日本の場合は領空に接近する航空機を対象にしていますが、中国は、防空識別圏内を飛行するあらゆる航空機を対象にするとしています。
さらに、協力しなかったり指示や命令を拒んだりした場合、武力による緊急措置を取るとしていて、各国は飛行の自由を不当に侵害するものだなどと反発しています。

 しかし、米国務省は29日、談話を発表し中国が東シナ海上空に設定した防空識別圏を米国の民間航空機が通過する際、中国当局に飛行計画書を提出するよう
米国の航空各社に求める考えを明らかにしました。
日本政府は、「設定を認めることになる」として、日本の航空各社に対し、飛行計画書の提出には応じないよう要請しており、一時は計画書を提出していた各社も27日以降は
提出していません。このように、日米のこの問題に対する温度差も気になるところです。

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おまけ

「領海」や「接続水域」どう違う?

 南シナ海の領有権や尖閣諸島などの問題をはじめ、中国の海洋調査船の活動をめぐって「接続水域」や「排他的経済水域(EEZ)」などの言葉をニュースでひんぱんに
みかけるようになりました。
どれも同じ海を指す言葉ですが、それぞれどう違うのでしょうか?

 海はみんなのものです。およそ危害でも加えようとしない限り、基本的にどこを航行しようとも自由でおおらかな場所です。
しかし、自国の領土に近ければ近いほど、その国が及ぼす力が強くなるという国際ルールがあります。

 その力の大きさによって、海は大きく4つのエリアに分類できます。
それぞれ領土からの距離で決めていて、「領海」(12海里=約22.2km)、「接続水域」(24海里=約44.4km)、「排他的経済水域(EEZ)」(200海里=約370.4km)「公海」と
呼ばれます。公海は、どこの国からの影響を受けず、一番自由に航行でき、だれの物でもない場所です。



「領海」「接続水域」「排他的経済水域」の違いを見てみましょう。

 「領海」は領土から一番近い場所にあります。言ってみれば“海の領土”なのですが、瀬戸内海のように陸の内側にある海(内水と言います)でない限り、外国の船は、
安全を害さない範囲で通航する権利があります。
しかし、外国の船が勝手に漁業をしたり、密輸を企んでいるようなら、日本の法律に基づいて船長らを逮捕する権利が国にあります。

 領海の外側に接しているのが「接続水域」です。密輸など怪しい船を見つけた場合は、予防的に取り締まることができます。
接続水域は、基本的に公海と同じで、どこの船でも自由に航行してよい場所なのですが、「海警」や「漁政」といった、何かやってしまいそうな怪しい船がやってくると
日本は「領海に近づくな」と警告したり、監視したりできるのです。

 領土から続く200海里向こうまでの一番範囲の広い場所が「排他的経済水域(EEZ)」です。
領海や接続水域を含むエリアです。日本の場合、広さは、国土面積の約10倍にあたる405万平方キロメートルあります。
ここでも船は自由に航行できますが、魚などの漁業資源やレアメタルやメタンハイドレートといった鉱物資源などに関してのみ、日本の法律を適用できます。
EEZでは国の許可があれば外国船でも操業ができますが、そうでない場合は取り締まりの対象になります。
日本では、海上保安庁や水産庁が、船だけでなく飛行機を使ってこの広い範囲を日々パトロールしています。

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