自衛権行使「新3要件」公明が原案 自民案装い、落としどころ

集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈変更の閣議決定は、19日に行われた安倍晋三首相と公明党の山口那津男代表の党首会談で最終局面に入った。
解釈改憲の核心は、自民党の高村正彦副総裁が提案した自衛権行使の「新3要件案」だ。
特に「他国に対する武力攻撃が発生し、これにより国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される恐れがある」という集団的自衛権行使に絡む文言をめぐり、自公間で調整が続く。
 

だが、実はその原案は、公明党の北側一雄副代表が内閣法制局に作らせ、高村氏に渡したものだった。解釈改憲に反対する公明党が、事実上、新3要件案の「下書き」を用意したのだ。
「私が考える新3要件というものの、たたき台を作ってみました」
13日の安全保障法制整備に関する第6回与党協議会で高村氏が突如A4サイズの紙を配った。
「集団的自衛権の行使はできない」と結論付けた1972年の政府見解の一部を引用し、行使を認める逆の結論を導き出す私案だった。
「この紙を見たのは初めてだ」。協議会後に北側氏は明言した。だが、事実は違う。

政府関係者によると、その数日前に公明党執行部がひそかに集合。解釈改憲で対立する首相と山口氏の「落としどころ」を探るためだった。
連立維持を優先させ、解釈改憲を受け入れる政治決断の場でもあった。
山口氏が「憲法解釈の一番のベースになっている」と尊重してきた72年見解を援用する形で、限定容認と読み取れる原案を内閣法制局に作成させる。
北側氏がそれを指示していた。

原案に自公協議の焦点となる「恐れ」があったかどうかは分からない。しかし、自民党関係者は言い切る。

「新3要件は自公の『合作』だ」

■「平和の党」連立に固執

公明党が17日に開いた安全保障法制をめぐる会合。
「被爆国として個別的自衛権の範囲でやりくりしながら、不戦の誓いを守ってきたのではないか」(中堅議員)
「同じ1972年見解から逆の結論を導き出して論理的な整合性が保てるというのなら、きちんと説明してほしい」(若手議員)
「政府が示した事例で集団的自衛権が必要だと主張する議員が一人もいないのに、なぜ行使容認の閣議決定案の議論に入るのか」(ベテラン議員)
19日の会合でも「高村私案には地理的制限がない」といった異論や慎重論が相次いだ。

新3要件の高村私案は、党執行部が「下書き」を指示したものだったとは、一般議員は知らない。
執行部が限定的ながら解釈改憲を受け入れた以上、党内会合はガス抜きの場になりかねない。
政府筋は「公明党幹部から『まだ騒ぎますけどすみませんね』と言われた」と打ち明ける。
だが、安倍晋三首相に譲歩した執行部と、反対を続ける一般議員の溝は埋まっていない。
この状況に最も苦しんでいるのが、党内で解釈改憲に最も強く反対してきた山口那津男代表だ。
弁護士出身であり、防衛政務次官を経験して安全保障政策に精通する。
もともとは72年見解を盾に「憲法解釈を変えるなら論理的整合性などを保つ必要がある」と訴えてきた。
連立維持のためとはいえ、解釈改憲受け入れの決断を余儀なくされ、じくじたる思いが募る。
複数の関係者によると、山口氏が「俺が辞めればいいんだろ」と漏らす場面もあったという。
しかし、党関係者の一人は言う。「代表辞任は許されない。辞めれば党が『筋を曲げた』と認めることになる。
ますます党員や支持者に説明がつかなくなる」

限定容認論では一致した自公だが、「限定」の範囲をめぐっては、なお大きな溝がある。
公明党が最後の抵抗をみせるのが、集団的自衛権の行使による海上交通路(シーレーン)の機雷除去だ。
戦闘状態での機雷除去は武力行使に当たる。首相は輸入原油の8割以上が通るペルシャ湾のホルムズ海峡を念頭に、日本の生命線である原油確保のため、集団的自衛権による機雷除去が必要だと主張する。
これに対し、公明党の井上義久幹事長は「首相は国会答弁で『武力行使を目的とした自衛隊の海外派遣はしない』と述べた。矛盾ではないか」とかみつく。
自民党は、機雷除去を含め、政府が示した集団的自衛権行使の8事例について「新3要件案で全て対応できる」と譲る気配はない。
公明党は、自分たちが「下書き」を用意した新3要件案によって、自縄自縛に陥る可能性がある。

=2014年06月20日付 西日本新聞朝刊=

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