安倍総理冒頭発言

いかなる事態にあっても、国民の命と平和の暮らしは守り抜いていく。内閣総理大臣である私には、その大きな責任があります。
その覚悟の基、新しい安全保障法制の整備のための基本方針を閣議決定いたしました。
自民党、公明党の連立与党が濃密な協議を積み重ねてきた結果です。協議に参加されたすべての方々の高い使命感と責任感に心から敬意を表する次第でございます。

「集団的自衛権が、現行憲法の基で認められるのか。」そうした抽象的、観念的な理論ではございません。
現実的に起こりえる事態において、国民の命と平和な暮らしを守るため、現行憲法の基で何をなすべきかという議論であります。

例えば、海外で突然紛争が発生し、そこから逃げようとする日本人を同盟国であり、能力を有する米国が救助、輸送している時、日本近海にいて攻撃を受けるかもしれない。
わが国自身への攻撃ではありません。しかし、それでも日本人の命を守るため、自衛隊が米国の船を守る。それをできるようにするのが今回の閣議決定です。

人々の幸せを願って作られた日本国憲法が、こうした時に国民の命を守る責任を放棄せよといっているとは、私にはどうしても思えません。
この思いを与党の皆さんと共有し決定いたしました。

ただし、仮にこうした行動を取る場合であっても、他に手段がない時に限られ、かつ必要最小限度でなければなりません。
現行の憲法解釈の基本的考え方は、今回の閣議決定においても何ら変わることはありません。
海外派兵は一般に許されないという従来からの原則もまったく変わりません。
自衛隊が、かつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことはこれからも決してありません。

「外国を守るために日本に戦争に巻き込まれる」という誤解があります。しかし、そのようなこともありえない。
日本国憲法が許すのは、あくまでわが国の存立を全うし、国民を守るための自衛の措置だけです。
外国の防衛それ自体を目的とする武力行使は今後とも行いません。
むしろ、万全の備えをすること自体が日本に戦争をしかけようとする企みを挫く、大きな力を持っている。これが抑止力です。

今回の閣議決定によって、日本が戦争に巻き込まれる恐れは一層なくなっていく。そう考えていいます。
「日本が再び戦争をする国になる」というようなことは断じてありえない。今一度、そのことをはっきりと申し上げたいと思います。

二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。その痛切な反省の基にわが国は戦後70年近く、一貫して平和国家としての道を歩んできました。
しかし、それは「平和国家」という言葉を唱えるだけで実現したものではありません。
自衛隊の創設、日米安保条約の改定、そして国連PKOへの参加、国際社会の変化と向き合い、果敢に行動してきた先人たちの努力の結果である。私はそう考えます。

「平和国家としての日本の歩みはこれからも変わることはありません」
憲法制定当初、「わが国は自衛権の発動としての戦争も放棄した」という議論がありました。
しかし、吉田総理は東西冷戦が激しさを増すと自らの手で自衛隊を創設しました。
その後の自衛隊が国民の命と暮らしを守るため、如何に大きな役割を果たしてきたかは言うまでもありません。

1960年には、日米保障条約を改定しました。 当時、「戦争に巻き込まれる」という批判が随分ありました。
正に批判の中心は、その論点であったと言ってもいいでしょう。強化された日米同盟は、抑止力として長年にわたって日本とその地域の平和に大きく貢献してきました。

冷戦が終結し、地域紛争が多発する中、国連PKOへの自衛隊参加へ道を開きました。当時も「戦争への道だ」と批判されました。
しかし、カンボジアで、モザンビークで、そして南スーダンで自衛隊の活動は世界の平和に大きく貢献し、感謝され、高く評価されています。
これまでも、私たち日本人は時代の変化に対応しながら、憲法が掲げる「平和主義」の理念の基で最善を尽くし、外交・安全保障政策の見直しを行ってまいりました。

決断には批判が伴います。しかし、批判を恐れず私たちの平和への願いを責任ある行動へと移してきたことが、「平和国家日本」を作り上げてきた。その事は間違いありません。
平和国家としての日本の歩みはこれからも変わることはありません。むしろ、その歩みをさらに力強いものにする。そのための決断こそが今回の閣議決定であります。

日本を取り巻く世界情勢は、一層厳しさを増しています。あらゆる事態を想定して、国民の命と平和の暮らしを守るため、切れ目のない安全保障法制を整備する必要があります。

もとよりそうした事態が起きないことが最善であることはいうまでもありません。だからこそ、世界の平和と安定のため日本はこれまで以上に貢献していきます。
さらにいかなる紛争も力ではなく、国際法に基づき外交的に解決すべきである。私は「法の支配」の重要性を国際社会に対し、 繰り返し、訴えてきました。

その上での、万が一の備えです。そして、その備えこそが“万が一”を起こさないようにする大きな力になると考えます。
今回の閣議決定を踏まえ、関連法案の作成チームを立ち上げ、国民の命と平和な暮らしを守るため、直ちに作業を開始したいと考えています。
充分な検討を行い、準備が出来次第、国会に法案を提出し、ご審議いただきたいと考えています。

私たちの平和は人から与えられるものではない。私たち自身で、築き上げるほかに道はありません。
私は今後とも丁寧に説明を行いながら、国民の皆様の理解を得る努力を続けてまいります。

そして、国民の皆様とともに、前に進んでいきたいと考えています。私からは以上です。


質疑応答

ー今回閣議決定した内容については、"日本への攻撃の抑止力を高める"という見方がある一方、武力行使要件として、"国民の生命などが根底から覆される明白な危険がある場合" とするなど、抽象的な表現にとどまった感があります。
これでは時の政権の判断で如何様もに拡大解釈でき、明確な歯止めにならないとの指摘もありますが、総理はいかがお考えでしょうか。


また、自衛隊の活動については、世界の警察官としての役割を果たそうとしないアメリカに、尖閣諸島をはじめ東アジア地域で求められる役割のより適切な実行を促すという期待がある一方、隊員が戦闘に巻き込まれ、血を流す可能性がこれまで以上に高まる可能性も指摘されています。総理はこの点をどうお考えでしょうか。

安倍総理
今回の新三要件と、いわゆる三要件と、基本的な考え方は同じと言っていいと思います。そして、それが武力行使の条件であったわけでありますが、繰り返しになりますが、基本的な考え方はほとんど変わっていない、表現もほとんど変わっていないと言ってもいいと思います。
今回の閣議決定は、現実に起こり得る事態において、国民の命と平和な暮らしを守ることを目的としたものであります。

武力行使が許されるのは、自衛のための必要最小限度でなければならない。このような従来の憲法解釈の基本的な考え方はなんら変わるところはありません。
従って憲法の規範性をなんら変更するものではなく、新三要件は憲法上の明確な歯止めとなっています。

また、この閣議決定で集団的自衛権が行使できるようになるわけではありません。国内法の整備が必要であり、改めて国会のご審議をいただくことになります。
これに加えまして、実際の行使にあたっても、個別的自衛権の場合と同様、国会承認を求める考えであります。
民主主義国家である我が国としては慎重の上にも慎重を期して判断をしていくことは当然であろうと思います。

今次の閣議決定を受けて、あらゆる事態に対処できる法整備を進めることによって隙間のない対応が可能となり、抑止力が強化されます。
抑止力が強化されたそのことによって、我が国の平和と安全が一層確かなものにできると考えています。

ー北朝鮮問題でお伺いたいいたします。本日北京で日朝局長級協議が行われました。
北朝鮮による特別委員会につきまして、拉致被害者の方を含め包括的・全面的な調査を行う、この実効性の担保がどのようにされているのか。
また日本独自の制裁解除に値するものになるのかどうか。総理のご認識をお願いいたします。

また、併せまして韓国の尹炳世外相が30日に韓国の国会答弁で日本の制裁解除を含む拉致問題解決に向けた交渉が、核問題についての日米韓の協調に影響を与えているのではないかとの認識を示されていますが、総理のお考えはいかがでしょうか。

安倍総理
日朝政府間協議については、現在も北京において開催されている最中であります。
私としては、代表団が帰国後に北朝鮮側の特別調査委員会に関する説明についてきちんと報告を受けたのちに、しっかりと見極め適切に判断をしていく考えであります。現時点で今後の対応についてお答えすることは適切ではないと思います。

日朝関係を含めですね、北朝鮮を巡る問題については、米国や韓国と緊密に連携をとってきています。
わが国としましては、今後も引き続き連携していく考えでありまして、日朝政府間協議の開催によって日米韓の連携に悪影響が出ることはないと考えています。

ー今回の集団的自衛権容認にするという決定は日本の国防政策の大きな転換になると思います。
これによって総理は今後日本をどのような国にするという考えをお持ちでしょうか。
抑止力を高め普通の国になるということは、また、平和を守るためには、もしかすると犠牲を伴うかもしれないという可能性もあると思いますが、国民がどのような覚悟を持つ必要があるでしょうか。


安倍総理
今回の閣議決定は、わが国を取り巻く安全保障、環境がますます厳しさを増す中、国民の命と平和な暮らしを守るために何を為すべきかという観点から、新たな安全保障法制の整備のための基本方針を示すものであります。

これによってですね、抑止力の向上と地域および国際社会の平和と安定に、これまで以上に積極的に貢献していくことを通じて、わが国の平和と安全を一層確かなものにできると考えています。

憲法が掲げる平和主義、これからも守り抜いて行きます。日本が戦後一貫して歩んできた平和国家としての歩みは、今後も決して変わることはありません。
今回の閣議決定は、むしろその歩みをさらに力強いものにしていくと考えています。

また、今回閣議決定をいたしました基本的な考え方、積極的平和主義につきましては、私は首脳会談の度に説明をしています。
そしてそれを簡単にした説明書を英語やフランス語やスペイン語やポルトガル語など、様々な言葉に翻訳したものをお渡しし、多くの国々から理解を得ていると承知しています。

また、自衛隊のみなさんも、いまこの瞬間においてもたとえばソマリア沖で海賊対処行動を行っています。
あるいは東シナ海の上空において、また海上において様々な任務を背負って活動をしているわけでありますが、それぞれ時には危険が伴う任務である中において、国民の命を守るために、彼らはその任務を粛々と果たしているわけでありまして、私は彼らに感謝をし、そして彼らのこの勇気ある活動に敬意を表したい。
彼らは私の誇りであります。今後とも、彼らはこれからも日本の国民の命を守るためにいただけると確信をしております。

ー関連法案の作業チームを立ちあげたいとおっしゃいました。今回示された基本方針が国会でどのように議論されていくのかというのは国民の関心も大きいと思います。グレーゾ
ーン、国際協力、集団的自衛権、この3つについて、どのようなスケジュールで法改正に臨まれるおつもりでしょうか。


安倍総理
法改正については直ちに取り組んでいく必要があると思います。
今回の閣議決定において、いまおっしゃったグレーゾーンにおいて、あるいは集団的自衛権において、あるいは集団安全保障において、自衛隊が活動できるようになるわけであはりません。
そのための法整備、スタートしていくわけでありますが、この法整備についてもスケジュールも含めて与党と連絡をして緊密な連携をしていきたい。
今の段階では、いつまで、ということは、これからスタートすることであるので、まだ申し上げる状況にはないと思います。

ーそもそもなんですけれど、集団的自衛権の問題というものに、総理が問題意識を持って取り組もうと思った、その何かきっかけとか原点をお聞かせ下さい

安倍総理
小泉政権時代、いわゆる有事法制、あるいは国民保護法の制定を行ったわけでありますが、当時私は官房副長官でありました。
あのとき、あららめて戦後60年経つ中において、そうした日本の独立、そして国民の命をまもるための法制には不備があるという現実と向き合うことになりました。
その中で残された宿題があった。それがグレーゾーンであり、たとえば集団安全保障の中において、PKOにおいて、一緒に活動する他国の部隊に対して、自衛隊がもし襲撃をされたときには助けてもらうけれども、逆は無いということで果たしていいのか。
あるいはNGOのひとたちが実際に危険な目に遭っている中で、自衛隊が彼らを守ることができなくていいのか。

そしてまた、何人かの米国の高官から、米軍あるいは米国は、日本に対して、日本を防衛する義務を安保条約5条において果たしていく考えてあると。
しかし例えば日本を守るために警戒にあたっている艦船が襲われた中において、近くにいて守ることにできる日本の自衛艦がそれを救出をしなくて、あるいはまたその艦を守るために何の処置もとらなくて、アメリカ国民の日本に対する信頼感、あるいは日本に対してともに日本を守っていこう日本を守っていこうという意志が続いていくか、そのことを真剣に考えてもらいたいと言われたこともありました。

だんだん安全保障環境が厳しくなる中、そうした切れ目のないしっかりした体制を作ることによって抑止力を強化をし、そして全く隙の無い体制をつくることによって、日本と地域は平和と安定した地域になっていくと考えたわけでありまして、今次、その意味において閣議決定ができました。

私は総理大臣として国民の命を守り、平和な暮らしを守るために、様々な課題に対して目を背けずに、正面から取り組んでいく責任があります。
その責任において閣議決定を行いました。

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